NPOの評価に関する5つの誤解

NPOの評価に関する5つの誤解

評価というと、業績評価や人事評価など一方的に品定め・値踏みするイメージが付きまといます。そのため評価に対してあまりよい印象を持っていないNPO関係者も多いようです。私自身も感じていたNPOの評価に関する誤解をまとめてみました。

誤解1

規模が小さい活動は評価をしなくてもよい。

評価には手間や時間がかかることもあるため、予算の規模の小さい活動や担い手が限られた活動では評価をしなくてもよいと思われるかもしれません。しかし、会費や寄付など貴重な自己財源による活動こそ、支援活動を適正に評価し会員や寄付者や受益者に対して説明する必要があります。創業者などの強烈なリーダーシップによる活動やボランティアベースの活動であっても、個人にできることには限界があるからこそ評価に取り組む必要があります。自分たちにできる範囲の評価によって、ステークホルダーが期待するような有益な結果を自分たちの支援活動が生み出しているかどうか、しっかり確認する必要があるのです。

NPOに評価が浸透しないたった1つの理由

NPOに「評価」が浸透しないたった1つの理由

2020.05.01

誤解2

評価はすべて数値化されなければならない。

評価という言葉から採点や評点と言ったイメージを持たれる人も多いため、評価は支援活動の成果を数値化することと捉えている方もいます。評価の過程で定量的な分析や量的調査は重要です。しかし、定量的な把握や統計的な分析だけでは、数字でつかめる事柄に限られてしまいます。NPOが取り組む支援活動は、意識の変化や行動の変化など成果を数値化することが難しいことが多々あります。このような変化を評価するためには、定性的な情報を基にした質的な調査が必要になります。文字的情報・定性情報は、状況をもたらした要因や数値を生み出す原因の説明や背景の意味付けをします。すべて数値化しなければならないわけではありません。

「エビデンス」という言葉をよく聞くようになりました。日本語で言うと「科学的根拠」のことを指しますが、これも誤解があるようです。「データや統計を用いた分析結果」をエビデンスと言うこともありますが、経済学や医学では「因果関係を示唆する根拠」をエビデンスと言うそうです。

誤解3

評価は外部専門家によって行われるべきものだ。

評価を行う際には専門家が参加したほうが良いのは事実ですが、専門家がいなければ全く評価ができないというものでもありません。事業改善を目的に評価する場合、ひいきや圧力で評価の解釈が変わることを防ぐために意思決定権限やマネジメントからは中立であったほうがいいと思います。と言っても、外部専門家任せにしてしまうと、評価内容や評価結果の共有がおろそかになり、活用されない評価/活用できない評価になる危険があります。活用されなければ、評価のために使った資源は無駄になってしまいます。

誤解4

評価は事業が終了したときに行えばよい。

報告書と評価が対になり説明されることが多いためか、終了時に行う評価が注目されます。しかし、評価は事業終了時だけに実施するものではありません。事業の計画段階で行う評価には「ニーズ評価」や「セオリー評価」がありますし、事業の実施段階で行う評価として「プロセス評価」があります。終了時には「アウトカム評価/インパクト評価」を行い、支援活動の成果を確認することがありますが、アウトカムやインパクトが大きかった要因/小さかった要因は、ニーズ(社会的課題や受益者の分析)やセオリー(原因と結果の仮説、支援活動の組み立て)、プロセス(支援活動の実施方法)を評価する必要があります。支援活動の終了時に、ニーズやセオリー、プロセスを評価しても意味がないとまでは言いません(次の活動に活かす、他団体と共有するなどであれば意味があります)が、適切な時期に適切な評価を実施することで支援活動の効果を大きくすることができます。

アウトカムを理解する

アウトカムを理解する

2024.08.07

誤解5

社会的インパクト評価は「インパクト評価」を行えばよい。

従来からある「インパクト評価」と最近注目されている「社会的インパクト評価」は別物と理解したほうがわかりやすいと思います。従来の「インパクト評価」は、支援活動(いわゆる介入)による純粋な変化を測り、価値づけする評価です。「社会的インパクト評価」とは、社会的インパクト・マネジメントを実践していくための評価で、ニーズ評価+セオリー評価+プロセス評価+インパクト評価+効率性評価=社会的インパクト評価といった評価の体系や考え方になります。より正確に言えば、「インパクト評価」は「社会的インパクト評価」の一部分にすぎないという理解になると思います。

インパクトには3つの立場があります。(1)短期的な変化であるアウトカムに対する長期的な変化としてのインパクト、(2)直接的な変化であるアウトカムに対する間接的な変化としてのインパクト(ポジティブ・ネガティブの両方の変化)、(3)介入による純粋な変化量としてのインパクトです。ロジックモデルにあるインパクトは(1)や(2)の意味で用いられることが多いですが、インパクト評価や社会的インパクト評価では(3)の意味で用いられているのが主流です。
社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(SIMI)は、社会的インパクト・マネジメントを「事業運営により得られた事業の社会的な効果や価値に関する情報にもとづいた事業改善や意思決定を行い、社会的インパクトの向上を志向するマネジメントのこと」と定義しています。この定義を読むと、社会的インパクトをマネジメント(管理)するではなく、社会的インパクトを生みだすためのマネジメント(組織運営)であると理解することができます。つまり、Management of Social Impactではなく、Management for Social Impactになります。

なにより大切なのは、評価の目的を決めて、自分たちの手の届く方法や規模で評価に取り組むことだと思います。実は多くの非営利団体はすでに評価を行っています。年間計画の策定や次の支援活動を計画する中で、これまでの活動を振り返り、教訓を導き出し、計画や実践に反映させています。このようなサイクルを繰り返すことで、社会的課題の解決への手応え、支援活動に対する自信が感じられるのではないでしょうか。それらがなければ、寄付の呼びかけや助成金の申請における自信や迫力が伝わりません。評価はファンドレイジングや広報にも役立つのです。