NPOの組織基盤を強化することは、単にNPOを存続させることにとどまらず、NPOが目指すミッションやビジョンの実現につながります。NPOの健全で持続的な運営のために必要となる組織基盤の強化について考えたいと思います。
なぜNPOで組織基盤の強化なのか
企業において設備や機材、業務や社内制度を構築・改善することは一般的となっています。しかし、NPOでは組織基盤よりもサービスの提供やプロジェクトの創出を優先することが多いため、組織基盤への投資は後回しにされがちです。組織基盤がないことで、社会の変化に対応できなくなったり、設立時の理念と現在の活動との乖離(ミッション・ドリフト)が表れたり、組織が不安定になる原因となります。
NPOの組織基盤の強化とは何か
組織基盤の強化は組織全体の強化を目的にします。ただし、カギはより具体的に改善を考えることです。組織基盤の強化に関する具体的な取り組みを理解するために、以下の4つに分類してみました。
活動基盤の強化
市民に理解されるビジョンの設定や見直し、ミッションの明確化・再確認・共有、ビジョンを実現するための中長期計画の策定、国際基準を見据えた事業の見直し、課題解決を加速させるためのパートナーシップの拡大、など
財務基盤の強化
財源の多様化、自己財源の確保や割合の拡大、新たな収益事業の検討、補助金/受託事業依存からの脱却、新たな寄付プログラムの開発、会計の透明性の確保、など
業務基盤の強化
会員(正会員)の定着・参加度合の向上、理事会の活性化、事務局の体制強化、スタッフの確保や育成、評価と改善サイクルの定着、業務プロセスの改善・効率化、ボランティアの参加拡大、コンプライアンス意識の向上など
広報基盤の強化
団体メッセージの開発や見直し、ロゴや制作物などの見直し、ウェブサイト(ホームページ)の活用、スタッフの広報スキルの習得、支援者(会員・寄付者)の満足度調査、広報活動の成果を知るための団体の認知度調査、など
組織基盤の強化:NPOが行う4つの準備
非営利団体が組織基盤の強化に取り組むためには、4つの準備が必要になると考えています。
第一に、組織について知識と理解がある役職員が組織基盤の強化に参加することが重要です。組織基盤強化プロジェクトの参加者は意欲と責任感が高いだけでなく、十分な時間を確保しておく必要があります。
第二に、組織基盤強化の責任者と期間を決めます。責任者は、その期間内で必要なことが確実に行えるように、スケジュールと予算を管理します。
第三に、プロジェクト参加者全員で議論する前に、組織の現状について個人的に振り返る時間が確保できるといいと思います。参加者全員で行うミーティングは、各参加者が得た情報や認識について、合同で優先順位や意味づけする時間にします。
最後に、組織基盤の強化の責任者と参加者は、意思決定のプロセスを透明に保つ心構えが大事です。参加していない役職員から納得と共感、そして合意を得て、組織基盤強化の目標や計画を策定します。
組織基盤強化の道具箱
組織基盤の強化には、現状把握、つまり組織診断が欠かせません。組織の自己評価を行うことで、具体的にどの分野の強化をする必要があるかを知ることができます。さまざまな組織診断のツールが用意・公開されているので、お時間があれば試してみるといいと思います。組織診断ツールはあくまでも道具(ツール)ですから、その使い方を間違うと期待する効果は得られません。組織とツールの相性が良いかどうかで、単に組織の情報を引き出すだけのツールになるか、組織基盤の強化へのスイッチを入れるためのツールになるか変わってきます。
キャパシティビルディングポータル(日本NPOセンター)
パナソニック株式会社の支援を受けて、日本NPOセンターが運営しています。主なコンテンツに「オンライン組織診断」「NPOリーダーのための15の力 WORK BOOK」(PDFダウンロード)があります。
アカウンタビリティ・セルフチェック(国際協力NGOセンター)
アカウンタビリティ・セルフチェックは、国際協力NGOセンター(JANIC)が開発した、NGOが市民や社会から信頼される組織として発展するための自己診断ツールです。チェックシートは公開されています。NGOに関わらず、非営利団体全般で活用できます。ウェブサイト上には「NGO組織スキル診断」も用意されています。
組織評価の手引き(内閣府)
平成25年度市民活動促進のための運営力強化ノウハウ転移調査事業のひとつとして「組織評価の手引き」が公開されています。パブリックリソース財団が開発した組織評価ツール、組織診断の流れや組織評価の活用方法などがまとまっています。
ベーシックガバナンスチェック制度(非営利組織評価センター)
非営利組織評価センターは「グッドガバナンス認証」と「ベーシックガバナンスチェック制度」の2つがあります。このうち、「ベーシックガバナンスチェック制度」の評価基準(チェックリスト)が公開されているので、組織診断のフレームワークに活用できます。
エクセレントNPO基準(「エクセレントNPO」をめざそう市民会議)
「エクセレントNPO」をめざそう市民会議が公開している34項目のエクセレントNPO基準も組織診断をするうえで、フレームワーク(枠組み)になりそうです。「市民性基準」「課題解決力基準」「組織力基準」という独自の切り口です。
CRファクトリー
CRファクトリーでは「コミュニティキャピタル診断」(組織診断)、コミュニティ運営支援ツール「コミュ助」、「NPO組織マネジメントノウハウコレクション」などが購入(有料)できます。コミュニティ運営や組織運営に関するイベントやセミナーも定期的に開催しています。
Organizational Capacity Assessment Tool Ver.1(SVP)
英語版しか見つけることができませんでしたが、SVPがOrganizational Capacity Assessment Tool(OCAT、組織力診断ツール)を公開していました。すでにVer.2もあるようです。SVPのOCATは、世界的なコンサルティング・ファームMcKinsey & Company(正確にはMcKinsey and Company for Venture Philanthropy Partners)の組織診断ツールをベースに開発されているようです。
NPOの広報・ファンドレイジングに関するチェックリスト
ファンドレイジングのレシピでも、NPO向けの広報基礎力チェックリスト、ファンドレイジングチェックリストなどを公開していますので、ぜひご覧ください。