NPOは、教育、保健、環境保全、まちづくり、災害、芸術、スポーツなど、さまざまな分野で、さまざまな目的をもって活動しています。どのような分野の団体であっても目的を達成するためには、活動分野の認知度と団体の信用度を高めて、会員や寄付者、ボランティアなど応援してくれる人を増やすことが必要になります。そのためには、継続的な広報活動が不可欠です。

広報とは

パブリック・リレーションズ(Public Relations)の日本語訳が「広報」だと言われています。広報ということばから受ける印象は、その字面の通り「広く報せる」になります。別のことばでいえば、情報発信・情報提供です。しかし、本来のパブリック・リレーションズには、関係性(リレーション)の構築という意味もあります。公共(パブリック)、社会には様々な人々や組織、グループがいて、関係性はひとつではありません。だから、複数の関係性(リレーションズ)になっています。関係性は広く報せるだけでは構築できません。

NPOにおける広報の仕事内容

NPOを取り巻く関係性を整理しながら、NPOにおける広報の仕事内容を整理したいと思います。

メディア向け広報(メディア・リレーションズ)

メディアはテレビやラジオ、新聞、雑誌など報道機関・マスメディアをさします。NPOに限らず、企業でもメディアとの関係構築は広報担当者が中心となって進めています。広報のメインとなる活動と言えます。

支援者向け広報(ドナー・リレーションズ)

個人寄付者や企業、助成団体といった支援者・資金提供者(ドナー)との関係構築はNPOの広報に期待される活動です。新規の支援者を増やすための話題づくりだけでなく、既存の支援者との関係性を良好に保つ取り組みも活動のひとつになります。

受益者向け広報(ベネフィシャリー・リレーションズ)

NPOは受益者のために活動を行い、支援者は受益者のために資源を提供しています。NPOにとって、受益者(ベネフィシャリー)との関係構築は欠かせません。受益者のプライバシーや尊厳を守った活動が広報担当者には求められます。

行政向け広報(ガバメント・リレーションズ)

法人の設立や政策への働きかけのためには、行政との関係を構築する必要もあります。行政との関係を持っておくことで、自分たちが取り組んでいる社会問題に注目を集め、委託事業、補助金、指定管理者などの資金提供の可能性や団体が掲げる理念の実現を加速させることができます。

職員・理事向け広報(スタッフ・リレーションズ)

企業では「社内向け広報」と言われますが、NPOの団体内と団体外の区別があいまいです。職員に限らず、理事やボランティア、インターン生、意思決定者である会員との関係構築が広報担当者の活動のひとつになります。

NPOにおける広報の役割

報告と説明(アカウンタビリティ)

NPOの広報には「報告」と「説明」を果たして、自分たちは何者で、何をしているのかについて透明性を保ち続ける役割があります。関わりのある人々以外にも広く事業計画書や事業報告書、決算書や予算書などを開示することで、責任ある団体、信頼できる団体だと認識されやすくなります。

資金調達(ファンドレイジング)

NPOの理念を実現するためには継続的な活動が必要です。そのためには資源(リソース)を確保する必要があります。資源の提供をよびかける際は、団体の理念や目的を伝えることが欠かせません。寄付者は自分たちの寄付が本当に理念や目的のために使われているか知りたがっています。このような寄付者の期待に応える情報発信がNPOの広報の役割になります。

世論形成(アドボカシー)

NPOの広報には、団体が取り組む特定の社会問題や価値創造についての教育的・啓発的な要素が加わります。「私の問題」を「私たちの問題」にする(社会問題化する)ことはNPOの広報の役割です。また、多くの場合、立法によってNPOの目的達成に近づくことができます。NPOの広報は、立法のプロセスに間接的に関与します。

NPOの広報活動:基本サイクル

関係性の構築(リレーション)は相手があることで成立します。「自分が伝えたいこと」を伝えるだけでなく「相手が知りたいこと」を伝えることで、関係性が強化されます。

伝えたい人を特定する

「相手が知りたいこと」を知るには、まずは相手を特定しなければなりません。いま自分の団体にはどのような人々が参加・協力してくれているのか、団体の理念を実現するためにはどのような人々の参加・協力が必要なのか洗い出してみましょう。そして、その中から特に重要なグループを2つから5つに絞ってください。絞る基準のひとつは、団体の理念実現に対する影響力の度合いです。もし影響力の度合いがわからない場合は、グループに関する情報量の多さやアプローチのしやすさを基準してもかまいません。

伝えたい人の「解像度」を高める

解像度を高めるとは、相手のプロフィールや「相手が知りたいこと」をよりよく知るということです。解像度を高めるための情報源はいくつかあります。これまでにインタビューした原稿、寄稿してもらった原稿を探して読んでみてください。アプローチができる場合は、メールや会報、ソーシャルメディアへの投稿などでアンケートを使って知りたいことを直接聞くこともできます。寄付やボランティアに関する調査も多く出ているので、調査を参考にして解像度を高めることができます。団体にあるデータベースをもとに統計を取ることでも伝えたい人の解像度を高めることができます。

広報ストーリーを考える

「自分が伝えたいこと」に「相手が知りたいこと」を加えてストーリーを考えます。または、「相手が知りたいこと」の中に「自分が伝えたいこと」を入れてストーリーを作ります。ストーリーを作成する際には、伝えたい相手に合わせた言葉使いで、簡潔かつ明確であることを常に意識しましょう。

広報ストーリーをテストする

ウェブサイトやソーシャルメディア、イベント、メールマガジン、プレスリリースなどを使って、ストーリーをテストします。利用可能なすべての広報手段を利用することは魅力的で効果的に思えますが、伝えたい相手が特定できていれば広報手段を絞り込むことができます。広報手段を絞り込むことで、手間もコストも削減できます。

広報ストーリーを改良する

ストーリーをテストして終わりではなく、改良を続けることで広報の効果を高めることができます。自分のストーリーをうまく伝えられたという手ごたえを感じた後は、それを伝え続けることが大切です。

「考える」「テストする」「改良する」というサイクルがNPOの広報活動になります。

「ファンドレイジングのレシピ」は、NPOの広報やファンドレイジングの”困った”の解決に伴走するウェブメディアです。