広報計画の策定やファンドレイジング計画の策定、ツールの作成・見直しの参考になる「寄付者行動モデル」を考えたいと思います。「寄付者行動モデル」を考える前に、より一般的な「消費者行動モデル」を考えることからはじめます。
消費者行動モデル
消費者行動モデルとは、消費者が商品やサービスを知り、購入し、使用し、廃棄するに至るまでの行動・経験・心理状況を時系列に沿って整理したものです。消費者行動モデルを踏まえて販売促進を計画することで、消費者が求める情報を適切なタイミングで提供して効果的に購買につなげようとします。消費者行動モデルの事例をいくつか取り上げます。
AIDMA(アイドマ)
1920年頃に、米国の経済学者が考えた消費者行動モデルです。消費者行動モデルの元祖ともいえるモデルです。マスメディアの広告を前提に作られた消費行動モデルのため、Action(行動)の前にMemory(記憶)のステップがあることが特徴です。また、一方的な情報発信を消費者が受け取るモデルになっています。
- Attention(認知・注意)
- Interest(興味・関心)
- Desire(欲求)
- Memory(記憶)
- Action(行動)
AISAS(アイサス)
2005年に電通が商標登録した消費者行動モデルです。AIDMAのDesire(欲求)がSearch(検索)へ、Memory(記憶)がなくなり、Action(行動)の後にShare(共有)が加わっています。インターネット時代の消費者行動モデルと言えます。Search(検索)とShare(共有)という消費者の能動的な行動が加わり、双方向になっています。
- Attention(認知・注意)
- Interest(興味・関心)
- Search(検索)
- Action(行動)
- Share(共有)
SIPS(シップス)
2011年に電通のサトナオ・オープン・ラボが提唱した消費者行動モデルです。ソーシャルネットワーク上の消費者行動に特化したモデルです。Sympathize(共感)を第一ステップとしている点、Action(行動)ではなくParticipate(参加)となっている点が特徴です。Participate(参加)は必ずしも購入とは限りません。
- Sympathize(共感)
- Identify(確認)
- Participate(参加)
- Share&Spread(共有・拡散)
寄付者行動モデル
寄付者行動モデルは、消費者行動モデルを参考に考えられた寄付者の行動モデルです。消費者行動モデルと同様に、寄付者がNPOを知り、寄付し、寄付をやめるまでの行動・経験・心理状況を時系列に沿って整理しようとするものです。
典型的な寄付者行動モデル
海外文献などで見る寄付者行動モデルは以下のようなものです。まず寄付者はNPOをAwareness(認知)するというのがファーストステップです。寄付するかどうかConsideration(考察)した上で、寄付というDecision(決断)します。最後、Ambassador(アンバサダー)となって寄付者の周囲の人々に寄付するようを呼びかけます。Consideration(考察)の代わりにResearch(調査)、Ambassador(アンバサダー)の代わりにEvangelize(伝道)のこともあります。
- Awareness(認知)
- Consideration(考察)/ Research(調査)
- Decision(決断)
- Ambassador(アンバサダー)/ Evangelize(伝道)
MITAS(ミタス)
日本ファンドレイジング協会やファンドレイジング・ラボが紹介している寄付者行動モデルがMITASです。共感にもつながるMoved(感動)を入口にして、Trust(信頼)を経ることが特徴と言えます。
- Moved(感動)
- Interest(興味・関心)
- Trust(信頼)
- Action(行動)
- Share(共有)
DETAC(デタック)
私が考える寄付者行動モデルは、DETACです。Discovery(発見)を出発点にEngage(関係構築)からTrust(信頼)を経てAction(行動)へ、そしてConviction(確信)するというものです。Sympathize(共感)やMoved(感動)ではなく、シンプルにDiscovery(発見)とした点、最後をConviction(確信)とした点がポイントです。
- Discovery(発見):インターネットや新聞・雑誌などでNPOを発見する
- Engage(関係構築):さまざまな場面でNPOとの関係性を構築する
- Trust(信頼):NPOを信頼するようになる
- Action(行動):NPOに寄付する
- Conviction(確信):「(NPOへの寄付を通じて)自分は社会の役に立っている」と確信する
DETACを想定した取り組み内容
Discovery(発見)
NPOが取り組んでいる社会問題や活動内容(社会問題の解決策)に関してウェブサイトやソーシャルメディアなどの媒体を使って情報発信します。
Engage(関係構築)
資料請求に対応したり、お問い合わせのメールやソーシャルメディア上のコメントに返信したりすることで関係を構築することができます。NPOから電話をかけたり、直接会って話をしたり、オンラインイベントへの参加を呼び掛けたり、NPOからの働きかけもできます。
Trust(信頼)
会計報告や活動報告を行って組織の透明性を高く保ち、寄付者の個人情報を安全に保つことで信頼してもらいます。「寄付したことを後悔するかもしれない」という理由を寄付者に与えないようにします。
Action(行動)
行動(寄付)してもらうために、大胆かつ直接的に寄付のお願いをします。寄付しやすい手段を用意していく対応も必要です。
Conviction(確信)
寄付によって何ができたのか、誰の役立ったのか、なぜ必要だったのかを寄付者に丁寧に伝えます。成果(インパクト)を見せることで「役に立った」と感じてもらいます。確信を得た寄付者は、継続的な支援のほかにも伝道師(エバンジェリスト)や熱烈なファン(アンバサダー)になります。
NPOだからと言ってAIDMAが役に立たないわけではありません。マスメディアへの広告を使って寄付を募ろうとしている場合は参考になるモデルです。また、消費者行動モデルは時代に応じてさまざまなモデルが登場してきました。寄付者行動モデルもひとつではないと思います。大口寄付者や継続寄付者、小口寄付者といった寄付者の分類によって寄付者行動モデルは変わっていくかもしれません。ぜひご自身のNPOに当てはめて考えてみてください。