すべてのNPOはダイバーシティとインクルージョンの価値観を共有していると思います。ただ、NPOは社会に対してダイバーシティとインクルージョンの価値観を発信していくだけでなく、NPOの日々の業務のなかでも実践していかなければなりません。NPOのダイバーシティとインクルージョン戦略について考えてみたいと思います。
ダイバーシティ&インクルージョンとは
ダイバーシティ(diversity)とインクルージョン(inclusion)は、英語の頭文字を取ってD&Iとも略されます。ダイバーシティとは多様性です。多様な背景、経験、視点を尊重することです。人種、性別、性的指向、宗教、年齢、障害、文化のほかにも考え方、アイデンティティ、キャリアの選択、趣味、ライフスタイル、そして性格までもが多様性の要素となります。インクルージョンとは包摂性と訳され、能力、障害、その他の特性にかかわらず、すべての人を尊重し、大切にすることです。D&IにEを加え、DE&Iと言われることもあります。Eはエクイティ(equity)で公平性です。平等はすべての人に同じ資源を提供する考え方に対し、エクイティは個々のニーズに基づいて資源が分配される考え方です。D & I(DE&I)とは、単に多様な労働力を持つことや職場内に多様な環境を作ることにとどまらず、誰もが居心地が良く、尊重され、潜在能力を最大限に発揮して社会と組織に貢献できる機会を得られる組織文化を醸成することです。
NPOがD&I戦略に取り組むメリット
D&I戦略に取り組むことによって、多様な人材を惹きつけ、維持することにつながります。居心地の良さや安心感は、コミュニケーションを促進し、組織内の協力体制を強化します。ハラスメントが防止され、職場の生産性が向上し、満足度が高まります。多様な人材は受益者のユニークなニーズを満たすイノベーティブな解決策を生み出す源泉となります。
多様性のある組織は、より広範なステークホルダーの参画が得られます。ステークホルダーの参画は地域社会から活動内容の理解と共感を高めることになります。地域社会の意見がNPOの活動内容や運営に反映されていると地域社会が認識することで信頼が生まれます。
NPOは会員や寄付者、ボランティアといった活動資源の多くを地域社会に依存しています。地域社会からの信頼は不可欠です。NPOのD&I戦略は地域社会から活動資源を得やすくする効果も期待できます。
NPOのD&I戦略のポイント
過去の取り組みを振り返る
過去の取り組みを振り返ることは、改善点を特定するために不可欠です。NPO内部の文化、方針、慣行を振り返り、変更が必要かどうかを判断することから始めましょう。スタッフやボランティアの定着率や満足度がどうなのか調査することも有効です。退職したスタッフのインタビューやアンケートを実施し、現状を把握する必要があります。D&Iに関して、過去の問題点を認めることが出発点になります。
理事会によるリーダーシップ
D&Iは戦略です。戦略の策定や実践に理事会のリーダーシップは欠かせません。しかし、理事会そのものに多様性や包摂性が低いこともあります。D&Iの視点で理事会の構成を見直すことはD&I戦略の強いメッセージとなります。理事会がダイバーシティとインクルージョンに積極的に取り組めば、より良い議論や意思決定につながり、大きな成果を上げることができます。
オープンなコミュニケーション
D&I戦略を推進していくためには、役職員の垣根を超えたオープンなコミュニケーションが必要です。団体にとっての「多様性」「包摂性」とは何か、自覚なき差別(マイクロアグレッション)、無意識の偏見や隠れた偏見について率直に話し合ってみましょう。団体として、用語や考え方について共通理解を得ておくことで今後の議論が円滑に進みます。
パートナーシップで専門性を補完する
D&Iに関する専門性のある地域の団体とパートナーシップでD&I戦略に取り組むことで、さまざまなリソースや専門知識を利用して、戦略を進めることができます。また、地域社会に対する理解を深めることができ、D&Iに対して十分な情報を得て有意義なアプローチをとることができます。D&Iに関する専門性のある団体がファシリテーターとして関われば、全員での対話や議論がより円滑に進むことが考えられます。
D&Iポリシーの策定
主要な業務に関して団体のダイバーシティとインクルージョンに対する方針を文書化しておきます。人材採用基準、就業規則(コンプライアンス規程)、理事会規程(ガバナンス)、ファンドレイジング規則、コミュニケーション(広報)規則、活動計画指針(プロジェクト形成)などが該当します。このようなポリシーは公表し透明性を高めることが重要です。
NPOもD&Iを戦略に取り入れることで、社会への影響力を強化させることができます。影響力の強化だけでなく、活動内容や運営への共感にもつながります。D&Iは流行に乗るための手段ではありません。今後、D&Iは必要不可欠な戦略になっていくと考えています。