教育機関のファンドレイジングの肝になる「アルムナイ・ファンドレイジング」

高校や大学などの教育機関も非営利組織(NPO)としてファンドレイジングに取り組むことが増えています。教育機関の特徴は、何と言っても卒業生の存在です。卒業生を対象にしたファンドレイジング、いわゆるアルムナイ・ファンドレイジング(Alumni Fundraising)について考えてみたいと思います。

Alumni【a・lum・ni】

alumnusの複数形。卒業生、同窓生、校友、アルムナイ。
※同窓会活動は「母校との絆を深めるために卒業生が示す測定可能な行動」「卒業生が母校に対して長期的に持つ魅力、つながり、愛情、影響力の度合い」などと定義されているようです。

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なぜ卒業生(アルムナイ)を対象にするのか

教育機関にとって卒業生ほど適した潜在的な寄付者はいません。卒業生は母校をよく知っており、組織について強く訴える必要がありません。教育や人脈など母校から多くのことを得ていて、感謝や満足している場合があります。卒業生は卒業生同士だけでなく、教職員と関係を築いていることもあります。教育機関が存続する限り、卒業生がいなくなることはありません。卒業するたびに新たな卒業生が加わるため、常に一定数の卒業生が存在することになります。

在校生からアルムナイ・ファンドレイジングは始まっている

卒業生は、卒業式の日に突然寄付者になるわけではありません。在校生でいるときから、卒業生の寄付で実現したことを伝えるようにし、時間をかけて少しずつ寄付への意識を高めていく取り組みが必要です。卒業生が在校生のイベントに参加することが有効です。卒業生をオリエンテーションに参加してもらうなど、卒業生の参加を入学から始まる在学生のライフサイクルの一部にするようにしてみてください。逆に、在校生へ同窓会イベントへの参加を呼びかけ、卒業生とのつながりをサポートすることも必要かもしれません。この早期の関係づくりが、将来、寄付に協力する基盤となります。

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2024.08.21

寄付依頼は卒業生とのコミュニケーションのひとつと捉える

卒業生への単発的・散発的な寄付の依頼だけでは寄付は集まりません。卒業生とつながりを維持し深めて卒業生の帰属意識や愛校心を育くむことで寄付につながります。そのためには卒業生との継続的なコミュニケーションが必要です。年次報告書や定期的なニュースレターの発行(年4回程度)、ブログ記事の配信、ホームカミングデーの開催、教職員による講演会、卒業生限定ツアーの実施、卒業生専用のオンラインポータルサイトの運営など卒業生向けの施策が考えられます。卒業生限定イベントを開催することは、卒業生同士を結びつけ、母校の支援者になるきっかけとなります。寄付の呼びかけは、このようなコミュニケーションのひとつと考えてみてください。

寄付受領から次の寄付依頼までにやっておくこと

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丁寧な情報発信を心掛ける

卒業生は自らの寄付がどのように使われるかについて、ますます透明性と説明責任を求めるようになっています。教育機関はこれに応えるため、寄付が奨学金といった学生支援/教育支援、研究支援、施設の充実など、どのような分野でどのような変化をもたらしているかについて、明確な成果指標を提示し、活動のインパクトを伝える必要が出てきています。寄付の使い道に関して、卒業生の理解と共感がない限り寄付は増えません。具体的な資金使途のほかに、募金目標や受益者を可能な限り明確にした丁寧な情報発信が求められています。資金使途が研究支援であれば、研究者のアウトリーチ活動と組み合わせて寄付を呼び掛けることも検討してください。丁寧な情報発信は、卒業生の母校の発展に貢献できている実感や満足感につながります。

表現にこだわってみる

「●●学校」「●●大学」という一般的な言葉遣いを「あなたの●●学校」「あなたの●●大学」「あなたの母校」に変えてみてください。「あなたの」という言葉を使うだけで、より大きな責任感を生み出す動機となります。卒業生こそが母校の支援者であると感じられるような表現にすることで、寄付率の向上が期待できます。
卒業生同士で共感しやすい、卒業生が母校で経験したことのストーリーを発信しましょう。アルムナイ・ファンドレイジングにおいては、卒業生の経験を伝えることで注目を集ることができます。このようなストーリーは、教育機関と卒業生との間に強い感情的なつながりを築くことにも役立ちます。ファンドレイジングではアイデンティティの共有や感情も大きな役割を果たします。

卒業生をセグメント化(細分化)する

同じ教育機関の卒業生と言っても一枚岩ではないことはあらかじめ理解しておく必要があります。卒業生をセグメント化(細分化)することで、より効果的な寄付のメッセージや依頼を送ることができ、寄付の可能性が高まります。セグメント化とは、簡単に言えば、同じ属性を持つ卒業生をグループ化することです。少なくとも、卒業年度、学部や専攻、課外活動(部活/サークル、委員会など)でセグメント化できるようにしておきます。特に学業以外の課外活動に積極的に参加していた卒業生は母校に対してより多くの経験と思い出があるため寄付する可能性が高いと言われています。セグメント毎にコミュニケーションチャネルや依頼内容を変えることで、寄付の依頼をより個人的な体験にすることができます。

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2024.11.26

アルムナイ・ファンドレイジングで最も避けたいことは、寄付の依頼しかせず、卒業生をあたかもATMのように扱ってしまうことです。
アルムナイ・ファンドレイジングの考え方は、高校や大学といった教育機関だけでなく、キャリア支援や奨学金支給など学生を対象にした活動に取り組むNPOにも応用できるかもしれません。ぜひ参考にしてみてください。教育機関の中には、その地域の企業家や宗教家、教育者、市民などの支援によって設立されていることもあります。教育機関設立の原点に立ち返ることでファンドレイジングの参考になることが見つかるかもしれません。