私も大変お世話になっているファンドレイジング・ラボ代表の徳永洋子さんの著書「非営利団体の資金調達ハンドブック」(時事通信社刊)を読みましたので、レビューしてみたいと思います。
非営利団体の資金調達ハンドブック
徳永 洋子【著】
時事通信社
238ページ/ソフトカバー
ISBN-10: 4788715104
ISBN-13: 978-4788715103
2017年3月23日発売
2,592円
これまで出版されてきたファンドレイジングに関する本は、社会や組織にとってのファンドレイジングの重要性を説く啓発本・読み物が多かったと思います。この書籍は、タイトルにもあるようにハンドブック(手引き書)です。コンパクトによく使う内容がまとまった書籍のことをハンドブックと呼ぶようで、旅行ハンドブックのように「携帯し活用する本」と捉えることができます。このような意味では、NPO/NGOのファンドレイザー(資金調達担当者)にとって待望の書と言えます。
豊富に掲載されたチェックリスト、例文集、ひな形からも、著者の「活用してほしい」という思いが伝わってきます。特に、第5章【会員】で紹介されている会員継続依頼文の例文は参考になりました。「会員期限の2か月前の継続依頼文」、「依頼状送付の1週間後」(メール例)、「会員期限当日」(メール例)、「会員特典失効日」(メール例)と会員継続関係だけで4種類の例文が掲載されています。すでに会員継続の依頼文を作成済みのNPO/NGOの皆さんも改めて文面やタイミングを見直すきっかけになるのではないでしょうか。
チェックリストや例文集だけが活用できることではありません。心理学や行動経済学を引用しながら、ファンドレイジングを「科学」しようとしていることも活用できると思います。ファンドレイジングを「科学」するということは、再現性がある(同じことを繰り返し観察・実現できること)ということであり、さまざまなNPOやNGOで応用の可能性が高まるということです。第3章【個人としての準備】の「心理学から学ぶ」「行動経済学から学ぶ」はぜひ一読しておきたい内容です。
一方で「物品寄付」と「街頭募金」に関する独立した項目がなかったことが残念に思いました。
物品寄付は、買取業者の協力も増え、取り組むNPO/NGOが増えている印象があります。寄付物品もはがき、切手といった古典的なものから、本、家電、骨董品、貴金属・ジュエリーなど多様化しています。改訂版では、ぜひとも物品寄付プログラムの「はじめる方法」、「ひろげる方法」(新しい物品寄付者の獲得)、「ふかめる方法」(会員や寄付者へステップアップ)を加筆していただくことを熱望します。
街頭募金は、手間のわりに寄付額が伸びない手法で効率的ではないかもしれません。それでも、お賽銭や募金箱設置と並び日本では最も伝統的なファンドレイジング手法です。クレジットカード決済、ソーシャルメディア、クラウドファンディングなどでのファンドレイジングが広まるにしたがって、寄付者と対面コミュニケーションする機会が減っていると感じています。街頭募金はファンドレイザーにとって、「エレベータートーク」(第3章2節)といったプレゼンテーションスキル、ボランティアマネジメントを磨く場にもなると思います。ぜひ、こちらも改訂版で追加掲載を検討いただきたいです。
あれが書いていない、これが抜けているというは、団体ごとに取り組んでいるファンドレイジングが異なるため、どうしても出てくることでしょう。ただ、少なくとも「非営利団体の資金調達ハンドブック」に書かれている「寄付」「会員」「イベント開催」「助成金」「事業収入」は、どのNPO/NGOにも関わってくるファンドレイジングの共通項目です。ファンドレイジング担当者の必携書としてだけでなく、誰もが参照できるように団体の蔵書として持っておくことをおすすめします。ぼろぼろになるまで活用し尽くしたいファンドレイジングの入門実用書です。