コロナ禍が長引き、新規会員や新規寄付の獲得が難しい状況が続いています。そこで注目したいのが「リレーションシップ・ファンドレイジング」という考え方です。リレーションシップ・ファンドレイジングの概要と注意点をご説明したいと思います。
リレーションシップ・ファンドレイジングとは
リレーションシップ(relationship)は日本語で「関係性」や「つながり」と訳されます。つまり、リレーションシップ・ファンドレイジングとは関係性やつながりを重視したファンドレイジングです。新規支援者の獲得よりも、既存支援者と長期的な関係を築くことで支援者の維持を重視したファンドレイジング・アプローチです。リレーションシップと対になる考え方は、トランザクショナル(Transactional、取引的)と言われています。寄付キャンペーンのように、ダイレクトメールなどを使って短期的に1回限りの寄付を呼び掛けるアプローチです。リレーションシップは「質」を重視したファンドレイジングで、トランザクショナルは「量」を重視したファンドレイジングと言い換えることもできます。リレーションシップとトランザクショナルのどちらかが優れているわけでなく、状況に応じて適切なアプローチを使い分けることが重要になります。
2つのリレーションシップ・ファンドレイジング
リレーションシップ・ファンドレイジングには大きく米国型と英国型の2つに分けることができます。米国型リレーションシップ・ファンドレイジングは、主に大口寄付に適用されてリレーションシップそのものに焦点があります。関係性の構築こそが最重要で、寄付は関係性を構築したことによって生まれる副産物ととらえます。寄付者と丁寧な対応が必要になる大口寄付を担当しているファンドレイザーから見たら、トランザクショナルなアプローチに批判的になるのも想像ができます。一方、英国型リレーションシップ・ファンドレイジングは、大口寄付のみならず小口寄付にも同様に適用されて、長期的な収入の最大化に強く焦点が当たっています。トランザクショナルなアプローチにもリレーションシップの視点を取り入れようとする視点です。
取り組むにあたっての注意点
リレーションシップ・ファンドレイジングでは、対象となる寄付者を深く理解することが重要になります。つまり、受益者のニーズだけでなく、寄付者のニーズに焦点を当てる必要が出てきます。寄付をどの活動に活用してほしいのかだけでなく、寄付することでどのような体験を得たいのか、寄付者が関係性を深めることで得たいことは何か、をアンケートやヒアリングなどで明らかにする必要があります。ファンドレイザーは寄付者のニーズを満たすための計画を策定して行動することになります。
リレーションシップ・ファンドレイジングは、複数年の中長期的な取り組みですのでファンドレイジング担当者以外のスタッフの理解を得ることが欠かせません。特に意思決定をする理事や事務局長の理解がないとリレーションシップ・ファンドレイジングはうまくいきません。寄付者とのリレーションシップだけでなく、理事会や団体内の他部署とのリレーションシップの構築にも取り組んでください。
リレーションシップ・ファンドレイジングに対して、「寄付をお願いすることを避けるための言い訳や理由になっている」「『リレーションシップ』に注力しすぎて『ファンドレイジング』をおろそかにしている」といった批判があります。関係性の構築は、「お願い」に代わるものではなく「お願い」を強化するためのものです。関係構築そのものが目的ではなく、寄付のお願いがしやすいように関係構築を行うことを忘れてはいけません。
ファンドレイジングにリレーションシップという言葉をつけなくても、ファンドレイジングは人や組織からの資金や人材などの資源を獲得する取り組みである以上、人や組織との関係から逃れることはできません。この意味では、リレーションシップ(関係の構築)はファンドレイジングの取り組みに内在しています。リレーションシップ・ファンドレイジングは、技術的・戦略的なファンドレイジングというよりもファンドレイジングに取り組むにあたっての理念や姿勢を示しているのではないかと思います。