貧困や福祉といった社会問題解決型NPOだけでなく、美術や音楽、演劇、郷土芸能、スポーツの普及や支援に取り組むNPOもあります。それらのNPOは社会価値創造型NPOと言えます。社会価値創造型NPOには特徴があり、その特徴を活かしたファンドレイジングを考える必要があります。今回の記事では、社会価値創造型NPOのファンドレイジングについて考えてみたいと思います。
社会価値創造型NPOに特徴的な3つのE
Experience(体験)
社会価値創造型NPOの取り組みは体験が特徴になっています。鑑賞・観劇・観戦といった「観る」という体験、描く・演じる・プレーするといった「する」という体験が中核的な価値となっています。
Exchange(交流)
社会価値創造型NPOは、作品を生み出す第一線で活動する人々を支援するという特徴があります。たとえば、アーティストであり、俳優であり、アスリートです。そのような人々との交流は、社会価値創造型NPOの価値となります。
Education(教育)
社会価値創造型NPOは教育的な特徴を持っています。たとえば、作品を観ることで時代背景を学べ、パラスポーツをすることで障害への理解を深めることができます。また、社会価値創造型NPOの存在は、常に自分の知識やスキルを高め、それを発揮する新しい機会を欲している若者たちにとって、大きな価値となっています。
社会価値創造型NPOのファンドレイジング
体験/交流/教育のストーリーを発信する
第一線で活動する人々や専門家のストーリーに加え、体験した人、交流した人、学んだ人といった一般の人たちのストーリーを発信してください。「その人にとって、あなたのNPOの活動が意味すること」を丁寧にヒアリングして、活動の重要性や感情、愛着についてその人自身の言葉で話してもらってください。どのように活動を感じていて、そこから何を得ているのかを思い出して語ってもらってください。
体験をより豊かにする
社会価値創造型NPOにとって体験が中核的な価値になっています。体験をより豊かにする特典を考えてみましょう。たとえば、バックステージツアーやバックヤードツアー、リハーサル見学ツアーなどが考えられます。未公開写真、作品制作過程のタイムラプス動画、観覧優先席なども手間をかけずに特典として検討できるかもしれません。社会価値創造型NPOを支援する多くの人は、クリエイティブな活動に参加したい、特別な体験を楽しみたい、と思っています。また、ポストカードやカレンダーといった特典は、体験を思い出すきっかけになるだけでなく、既存支援者の周りに認知度を広める方法にもなります。
支援者との交流の機会を作る
アーティストや俳優、アスリートといった第一線で活動する人々と支援者の交流の場を少なくとも年に1回は計画しましょう。新年会や忘年会、クリスマスパーティー、ハロウィンパーティーなど季節のイベントとして開催すれば、参加しやすくなります。このような交流の場は、支援者同士の交流の場にもなり、支援している感情を共有する大切な機会になります。交流の機会を使ってオリジナル作品や倉庫で眠っている衣装や小道具、出演者のサイン入りポスターなどのオークションや即売会を実施すればファンドレイジング・イベントになります。
新しい教育プログラムを開発する
教育プログラムに注目している支援者が少なからずいます。ほとんどの社会価値創造型NPOはアウトリーチ活動にも取り組んでいます。アウトリーチ活動が寄付の動機になっている支援者も多いかもしれません。既存の支援者と感情を共有できる新しい鑑賞者・観劇者・観戦者の発掘につながる教育プログラムやアウトリーチ活動は資金を得る機会となります。地域の教育機関や商店街等での取り組みを検討してみてください。また、オンラインや電話を使った教育プログラムも考えられます。
ファンドレイジングはチームで取り組む
社会価値創造型NPOは施設を管理していたり、興行を実施していることがあります。入場チケット販売の担当者と寄付や協賛の担当者が協力することは効果的なファンドレイジングの勘所です。チケット購入者リストと寄付者リストが分かれていれば共有することで相乗効果を生み出してください。NPOの視点から考えるのではなく、支援者からの視点で考えるようにしてください。支援者と一貫したコミュニケーションをすることができれば、支援者の満足度は高まります。協力し合うことで、寄付つきチケットやグッズつきチケットなどのアイディアが生まれるかもしれません。
美術や音楽、演劇、郷土芸能、スポーツなどの社会価値創造型NPOの取り組みは、個人の生活への影響力があり、社会や文化の発展において重要な役割を果たしています。しかし、このような影響力や役割を動機にして支援をする人は少数派です。社会価値創造型NPOへの支援は自分の人生を豊かにするために行うことが多いと考えられます。社会価値創造型NPOがファンドレイジングに取り組む際に考えたいことは、3つのEをより魅力的にすること、3つのEをより豊かにすることだと思います。